佐々木哲学校

アクセスカウンタ

zoom RSS 2000年東大前期・世界史第1問「中国思想が啓蒙思想に影響を与えた」

<<   作成日時 : 2006/09/01 23:45   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

大航海時代以降、アジアに関する詳しい情報がヨーロッパにもたらされると、特に一八世紀フランスの知識人たちの間では、東方の大国である中国に対する関心が高まった。以下に示すように、中国の思想や社会制度に対する彼らの評価は、称賛もあり批判もあり、様々だった。彼らは中国を鏡として自国の問題点を認識したのであり、中国評価は彼らの社会思想と深く結びついている。

儒教は実に称賛に価する。儒教には迷信もないし、愚劣な伝説もない。また道理や自然を侮辱する教理もない。(略)四千年来、中国の識者は、最も単純な信仰を最善のものと考えてきた。(ヴォルテール)

ヨーロッパ諸国の政府においては一つの階級が存在していて、彼らこそが、生まれながらに、自身の道徳的資質とは無関係に優越した地位をもっているのだ。(略)ヨーロッパでは、凡庸な宰相、無知な役人、無能な将軍がこのような制度のおかげで多く存在しているが、中国ではこのような制度は決して生まれなかった。この国には世襲的貴族身分が全く存在しない。(レーナル)

共和国においては徳が必要であり、君主国においては名誉が必要であるように、専制政体の国においては「恐怖」が必要である。(略)中国は専制国家であり、その原理は恐怖である。(モンテスキュー)

 これらの知識人がこのような議論をするに至った一八世紀の時代背景、とりわけフランスと中国の状況に触れながら、彼らの思想のもつ歴史的意義について、解答欄(イ)を用いて一五行以内で述べよ。なお、以下に示した語句を一度は用い、使用した場所には必ず下線を付せ。

 イエズス会、    科挙、       啓蒙、     絶対王政、
 ナント勅令廃止、  フランス革命、  身分制度、  文字の獄


【解き方】
 問題で引用されているヴォルテール、レーナル、モンテスキューの言葉を読むと分かるように、中国の思想や社会制度に対する評価は、称賛も批判もある。ヴォルテールは儒教が理性的なもので迷信に縛られてないことを称賛し、レーナルは科挙制を称賛して身分制度を批判している。それに対してモンテスキューは、中国の政治を恐怖で支配する専制政治であると批判した。しかし、この三人には共通するものがある。それは宗教であれ、身分制度であれ、専制政治であれ、かれらがフランスの旧制度を批判しているということである。かれらは中国の実像を描いたのではなく、中国を鏡として自国の問題点を指摘したのである。このことが理解できれば、一八世紀のフランスと中国の状況に触れながら、これら啓蒙思想の歴史的意義について論述することは簡単だ。中国の思想・制度と西欧の啓蒙思想の関係を知らなくても、問題文と引用資料がきちんとヒントになっている。
 指定されたキーワードは、「イエズス会」「科挙」「啓蒙」「絶対王政」「ナント勅令廃止」「フランス革命」「身分制度」「文字の獄」だ。
 しかし啓蒙思想家の順番が気になる。実は年代順に並べると、モンテスキュー、ヴォルテール、レーナルになる。作成者は、問題文で「称賛もあり批判もあり」と記しているので、そのまま称賛者ヴォルテールとレーナルの言葉を先に引用し、批判者モンテスキューの言葉を後に引用したのだろう。実際の解答でも、そのように称賛者・批判者の順番に書いてもいいが、時代背景を述べるとき不自然になる。そこで、ここではきちんと年代順に、モンテスキュー、ヴォルテール、レーナルの順番で答えてみよう。
 まずは中国を批判した側の事情を考えてみよう。ここで使用するキーワードは、「文字の獄」「ナント勅令廃止」「絶対王政」「フランス革命」だ。
 清朝が文字の獄や禁書令で思想を厳しく取り締り、また典礼問題でキリスト教を禁止したことが知られるようになると、モンテスキューのように中国を批判する者もあった。しかし、モンテスキューが本当に批判したかったのは中国ではない。実は、直接フランス絶対主義を批判すれば処罰されるため、中国をフランスに見立て批判したのだ。中国における文字の獄・禁書令などの思想統制や典礼問題でのキリスト教禁止が、ルイ一四世の「ナント勅令廃止」によるユグノー(プロテスタントの一派カルヴァン派)禁止と重なって見えたのだ。イギリス議会政治を理想と考えていたモンテスキューは、中国批判を通してフランスの「絶対王政」を批判し、専制政治を防ぐための立法・行政・司法による三権分立を主張した。この三権分立の考えは、こののちのアメリカ独立戦争や「フランス革命」に影響を与えた。
 つぎに、中国を称賛した側の事情を考えてみよう。ここで使用するキーワードは、「科挙」「身分制度」「啓蒙」「フランス革命」だ。
 一八世紀当時の厳しい身分制度に矛盾を感じていたフランスの人びとには、身分に関係なく、試験で官僚を登用する中国の「科挙」制度をうらやましく思った。かれらには、中国が理性的な理想の国に思えたのだ。
 当時のフランスでは、聖職者(第一身分)と貴族(第二身分)が特権身分として優遇される一方、人口の圧倒的多数を占める平民(第三身分)は重税に苦しんでいた。啓蒙思想家ヴォルテールやレーナルは、中国エリートが学力試験である科挙を通過した非世襲的エリートであることに注目し、厳しい身分制度のもと貴族・僧侶が権力を独占しているフランスの現状を批判した。かれらによって、身分制度そのものを批判する動きが生まれた。「フランス革命」は、まさに身分制度を批判するところから始まっている。
 最後にまとめだ。ここで使用するキーワードは、「イエズス会」「絶対王政」「啓蒙」だ。
 モンテスキューとヴォルテール、レーナルの言葉を、その時代背景に即して比較検討することで、かれらの中国観の違いが、中国側の事情というよりも、情報の受け手であるヨーロッパ側の事情によることがわかる。「イエズス会」の情報は正確であったが、それを受け取る側の立場によって、異なる受け取られ方をしたのである。しかし、批判者と称賛者には共通する点もあった。かれらは、直接、自国の「絶対王政」を批判することができなかったため、中国像を通して「絶対王政」を批判し、そして両者ともに「啓蒙」思想に影響を及ぼしたということだ。

【解答例】
ヴォルテール、レーナル、モンテスキューは中国の実像を描いたのではなく、中国を鏡に自国の問題点を指摘したといえる。中国はイエズス会宣教師を通じて西洋の学問を知ったが、宣教師も中国の文化・制度を積極的にヨーロッパに紹介し、各方面に大きな影響を与えた。しかし中国における文字の獄による思想統制や典礼問題によるキリスト教禁止が知られると、モンテスキューには、ルイ一四世のナント勅令廃止による思想・宗教弾圧と中国における思想・宗教弾圧が重なって見えた。イギリス議会政治を理想と考えていたモンテスキューは、中国批判を通して絶対主義王政を批判し、専制政治を防ぐため立法・行政・司法の三権分立を主張した。他方で、ヴォルテールやレーナルは、身分に関係なく試験で官僚を登用する中国の科挙制度を称賛し、身分制度を厳しく批判した。フランス革命は、まさに身分制度批判から始まった。このように見てくると、中国を批判した者にも称賛した者にもフランス絶対王政批判が共通しており、両者ともに啓蒙思想に影響を及ぼしたことがわかる。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
しかし中国における文字の獄による思想統制や典礼問題によるキリスト教禁止が知られると、モンテスキューには、ルイ一四世のナント勅令廃止による思想・宗教弾圧と中国における思想・宗教弾圧が重なって見えた。
これは推測のようですが、実際入試のときこのように書いてもいいですか(もちろんそのぐらいの実力があればのはなしですが)。
現役受験生です。
ゆう
2011/08/26 21:52
「中国は専制国家であり、その原理は恐怖である」というモンテスキューの言葉から、清の恐怖政治の内容(文字の獄・典礼問題)を思い浮かべてください。そしてルイ14世の政治(ナント勅令廃止など思想弾圧・王権神授説・諸勢力の弾圧など)を思い浮かべてください。政策が重なりますね。モンテスキューは東西の専制政治に共通項を見出したというのが、この問題文なので、共通項を書いたのです。これは推測ではなく、解釈です。解釈が適切にできるように、多くのことを学んでください。単なる推測はダメです。

18世紀のヨーロッパはとても面白いです。中国思想がヨーロッパ思想に影響を与えたことについては、学術書の古典である後藤末雄『中国思想のフランス西漸』(東洋文庫、平凡社、1969年)が参考になります。18世紀ヨーロッパは面白いですよ。
佐々木哲
2011/08/26 23:04

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文

恋愛哲学

2000年東大前期・世界史第1問「中国思想が啓蒙思想に影響を与えた」 佐々木哲学校/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる