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zoom RSS 2003年東大前期・国語第一問「民俗宗教・靖国問題」

<<   作成日時 : 2005/11/06 14:53   >>

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小松和彦「ノロイ・タタリ・イワイ」(山折哲雄・川村邦光編『民俗宗教を学ぶ人たちのために』)より出典。
【内容要約】
 民俗宗教において、祟りの信仰は大きな比重を占めている。それは広い意味での「世間の目」「霊の目」に対する恐怖・配慮の象徴的表現であるかもしれない。しかし日本人は、死者が家族や親族、それに共同体のために犠牲になった者であっても、彼らに対して「負い目」「後ろめたさ」を感じ、その霊を慰め、祠を建て、神に祀り上げてきた。言い換えれば、日本人は生きているというだけで、霊に対して「負い目」を感じる立場に置かれているといえる。このように日本人は「霊の目」を無意識のうちに気にし続けており、その「霊の目」が安らかになるよう祀ることが、日本人の「祝い祭り」の本質である。
 たとえばミクロネシアなど戦地での遺骨収集団や慰霊団の現地での慰霊行為について、日本人である私は十分理解できるが、アメリカ人や現地人には異様なものに見えるらしい。この光景の受け取り方の違いに、日本文化の特徴、とくに日本人の「霊」への信仰の特徴が示されている。
 物言わぬ「戦友の霊の目」を背負って生きてきた者の「思い」、つまり死んだ者が可哀想だ、生き残って申し訳ないという「思い」が、元兵士たちの慰霊行為を導き出している。それらの「思い」によって、元兵士たちの時間は止まり続けているのである。私たちは、そこに日本人の民俗的な信仰伝統を見出すことができる。
 しかし近代以前には、異郷の地で命を落とした者の遺骨を拾って、故郷に返すという習俗はなかった。それが民衆の間で定着したのは、山折哲雄によれば日中戦争開始以後だという。当時の国家が、戦死者の遺骨を戦地に赴いて収集し、故郷に持ち帰って霊を慰め、「英霊」として靖国神社や地方の忠魂社で祀り上げたのである。これは民俗的信仰を変形させて作ったものである。
 ところが、このような国家的行事を生み出して運営していた国家が敗戦によって倒れたのだから、この擬似的宗教的行事も廃止されて当然であった。しかし、この遺骨収集の儀礼的行為は、わずか二十年足らずの間に日本人の心性に深く入り込み、むしろ逆にこの国家主義的儀礼行為を自分たちの信仰に組み込んでしまったのである。
 遺骨をより代にして帰国する霊を迎えたいという「思い」は、国家だけではなく、民衆のなかにもあったと見るべきであろう。その心性は、近代国家成立以前から成立していた、「霊の目」を意識した「後ろめたさ」に由来するものであった。現在でも、日光ジャンボ機の墜落現場である御巣鷹山、阪神・淡路大震災の被災地にも見出すことができる。

【解答例】
(一)日本人は怨念を恐れただけではなく、自分と親しい者に対しても「負い目」「後ろめたさ」を感じ続けているということ。
(二)「霊の目」を無意識のうちに気にし、「霊の目」がやすらかになるように祈るのが、日本人にとっての「祝い祀り」の本質であるから。
(三)元兵士たちは年取った今も、戦友が可哀想だという感情や、自分だけが生き残ったことの負い目を持ち続けているから。
(四)異郷の地で死んだ者の遺骨を収集する習俗は、実は近代の軍国主義国家が民俗的信仰を変形して作り出したものであるから。
(五)遺骨をより代にして霊を迎えたいという思いは、実は近代国家成立以前からあった「霊の目」を意識した「後ろめたさ」に由来したものであり、現在でも日光ジャンボ機の墜落現場である御巣鷹山、阪神・淡路大震災の被災地にも見出すことができる。
(六) (a)未練(b)停泊(c)託宣(d)墜落(e)被災

【解答のコツ】
(一)傍線部アが「言い換えれば」で始まるということは、その前で主張されていた内容を言い換えているということ。
(二)第一段落で日本人の「祝い祀り」の本質が述べられた後に、第二段落で筆者のミクロネシアでの体験談が記され、第三段落の最初の文である傍線部イに続く。だから、慰霊行為が日本人の「祝い祀り」の本質だからと述べればいい。
(三)傍線部ウは、この段落で述べられている年老いた元兵士の心情を、抽象的な表現でまとめた文であるため、元兵士の心情を具体的な表現でまとめればいい。
(四)傍線部エは、前段落の最後の文から「ところが」「したがって」と続いている文章であるため、前段落の内容をまとめればいい。
(五)傍線部オはこの文章全体のまとめであるため、民衆の宗教心を中心に述べればいい。本文のテーマは民俗宗教であって、靖国論ではないので、けっして国家主義的儀礼の説明を中心に記したりしないこと。靖国論にしてしまうと、内容が浅くなり、せっかくの深い内容が台無しになってしまう。

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コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
現代文の解答、参考にさせていただいてます。
2003年度現代文第一問ですが、
これについては本文の語を引用している割合が多く、青本の模範解答の方が高級なものだと思います。
受験生の書けるレベルとしてはこちらの方が優れているのかもしれませんが、
自分の言葉で説明する必要性を考えると、
青本の模範解答も参考にすべきところが多いと感じられます。


他の年度に関しては、こちらを参考にしていますが、たまたまこの年の青本の現代文担当者が良かったのかもしれません。
anctus
2007/02/20 19:44
青本は強調点のない平凡な模範解答に思えます。

(一)自分と親しい者に対してさえも、負い目・後ろめたさを感じることを強調する必要があります。しかし青本では、それが強調されていません。

(二)「霊の目」を無意識のうちに感じることを強調する必要があります。そこで、やはり「霊の目」をわざと引用してまとめました。しかし青本は「無意識」に触れていません。

(三)ここでは、戦友に対しても負い目を強調する必要があります。ところが、青本は負い目をさらりと流しています。

(四)ここでは、「変形」であることを強調しなければなりません。ところが青本では、完全なる創造物ととられる表現になっています。これでは、次の解答につながりません。

(五)ここでは、民俗宗教を利用したはずの国家的儀礼が、逆に民俗宗教に飲み込まれてしまったことを強調しなければなりません。ところが青本では、その逆転が表現できていません。

また「負い目」「後ろめたさ」は、これで十分に通じる言葉であり、書き換えることで却って難しい言葉になると判断して、わざと引用しました。
佐々木哲
2007/02/20 22:26
なるほど。
私の読みがまだ甘かったようです。
詳しい返答ありがとうございます。
anctus
2007/02/21 21:43
どういたしまして。
きっと、わたしの説明が不足していたのでしょう。それに、このような双方向のコミュニケーションがあった方が、より深く理解できるものです。お役に立てたのであれば、うれしく思います。
佐々木哲
2007/02/21 22:58
私も青本を持っているのですが、解説が詳しいわりにはどうもしっくりこない解答が多い気がします。赤本のほうがしっくりきます。
25ヵ年の解答は悪すぎだとボロクソいわれることが多いですが、むしろあの解答から自分なりの解答を作り上げるのが一番いいのでは?と感じます。

自分の解答をチェックする際に気をつけるべき点は何かありますか?
イチロー
2011/11/20 11:10
イチロー君、お久しぶりですね。最近年の解答例を未発表であるにもかかわらず、たびたびの訪問うれしく思います。

一般的には批判されている赤本に注目できるとは、たいした実力ですね。青本は赤本批判から出発していますが、では本当にいい内容かというと疑問があります。解説の量は多いのですが、必ずしも的確なものとはいえません。あなたが疑問に思うのもよく分かります。

自分の解答をチェックする方法は、解答を並べて読んでみて、きちんとあらすじになっているかどうかを見てください。あらすじになっていれば正解です。読んでみて自分でも理解できないようであれば不正解です。

簡単な質問でしたら遠慮なく質問してください。ちょうど解答例を少し修正したいなと思っているところなので、ちょうどいいです。
佐々木哲
2011/11/21 23:04
お久しぶりです。しばらく過去問以外の問題を中心にやっていました。これから残している2年分をやこうと思っています。

この問題はいつもより問題文の表現を素直にまとめるだけで解答がつくれたな、と思いました。

ところで、三大予備校が東大模試の問題集を出していますが、ご覧になったことはありますか?
イチロー
2011/11/24 15:10
東大模擬試験問題集の存在は知っていますが、予備校の模擬試験で良い問題だなと思ったことがないので、興味がありません。

模擬試験でさえ、模範解答が良くないなと思ったことがあるのです。受験生から見せてもらったとき、自分で作ったのなら、もう少し良い解答を作ってほしいと正直思ったのです。

最近では、予備校が作成した東大入試解答速報も見ていません。面白くないからです。

どうして、そんなことを聞くのですか?
佐々木哲
2011/11/24 17:50
返答ありがとうございます。

ご覧になったことがあるなら感想を聞いてみたかったのです。
僕が受けた模試の解説を見て、深読みしすぎというか、自分でストーリーを作ってるような印象を受けたので・・・

過去問が終わったら東大模試の問題集をやる予定ですが、やる価値ないですか?(さすがにそんなことはないと思うのですが・・・)
イチロー
2011/11/24 18:55
模試に対する意見が一致しましたね。自分たちで作ったはずの問題なのに、模範解答がよくないのです。あなたの言うとおり、細かいことにこだわりすぎて大筋が見えていないのです。

問題も、本物の東大入試に比べると面白くないです。本物だと哲学的に深い解釈ができる問題が多いのですが、模試だと当たり障りのない文章が多いですね。おそらく自分たちが解説や模範解答を作りやすい文章を選んでいるのでしょう。それにしては模範解答がよくないです。

私がお勧めの勉強方法は、センター試験の国語の問題を論述試験として解くのがいいと思います。模範解答がすでに選択肢として与えられていますよね。センター対策にもなります。

それから早稲田や明治・立教などの問題も使えますね。選択肢が模範解答です。私立対策にもなります。

すべて終わってから、模試問題集をやって見たらどうでしょう。その場合は、私が添削してあげたいですけどね。
佐々木哲
2011/11/25 00:03
アドバイスありがとうございます。

最近センター過去問を解いたとき、「センターを記述式にすると東大の問題になる」といわれるのがなんとなく分かったような気がします。傍線を見た瞬間に、なぜ、何を問うために傍線が引かれたかも少しずつ分かるようにもなってきました。
読むのに必死だった頃にはなかなかそこまで気がまわらなかったのですが。

「過去問が一番の参考書」ともよく言われますね。入試問題を作る教授方にはなかなか追いつけないということでしょうか(笑)
特に東大は良い問題だな〜と思うことが多いです。

受験が終わっても趣味で入試問題を解き続けたいものです。
イチロー
2011/11/25 00:38
細かいですけど、日光ジャンボ機じゃなくて日航ですよ
ZERO
2015/04/04 03:13
ZEROさん

ご指摘ありがとうございます。けっして小さいことではありません。ありがとうございます。
佐々木哲
2015/04/06 23:25

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